「海外赴任で投資信託は強制売却・株は塩漬け」はもう古い
「投資信託、どうなるんですか」——出国の手続きで証券会社に聞いたとき、返ってきた答えははっきりしていた。投資信託は売ってください、個別株は持っていてもいいけど売却しかできません、と。当時の僕には、投信を塩漬けで持ち続けるという選択肢すら無かった。だから全部売った。NISAでコツコツ積み立ててきたものを、渡航のタイミングに合わせて一気に手放すのは、正直かなり焦った。
ところが最近になって、各社のルールがこの1〜2年で変わっていたことを知った。今は出国手続きをすれば、投資信託も「持ったまま」にできる。「海外赴任したら投信は強制売却」は、もう古い情報になっていた。
ただし——だからといって「積み立てを続けられる」わけではない。ここを誤解すると痛い。これから海外駐在の可能性が少しでもある人に向けて、①今はどう変わったか、②「持ったまま放置」の実態、③それでも投信の積み立ては慎重に考えた方がいい理由、を順に書く。僕は税の専門家ではないので、実体験と各社の公式情報ベースで書く。
「投資信託 海外赴任」で来た人へ:結論を先に
長くなるので、まず要点だけ先に置いておく。
- 今は「強制売却」ではない。出国手続きをすれば、投資信託も持ったまま海外赴任できる(楽天・SBIなど・2024〜2025年に対応拡大)
- ただし「保有継続」=売らずに持てるだけ。積み立て(新規買付)は止まる。放置はできても育てられない
- 手続きをせずに出国すると、各社の判断で強制売却されることがある。「持ったまま行く」にも手続きは要る
- 特定口座は一般口座へ振り替わる(帰国時に戻せる場合あり)。取得価額の管理が自分の責任になる
- アメリカ赴任は別問題(PFIC)。日本の証券会社が保有を認めても、税の理由で結局売った方が有利なことが多い
この5点が「投信 海外赴任」でつまずくポイントのほぼ全部だ。以下、順番に理由を書いていく。
僕のときは「投信は強制売却・個別株は塩漬け」だった
数年前、僕が渡米のために出国手続きをしたとき、主要なネット証券の扱いはどこもだいたい同じだった。
- 投資信託 → 出国前に売却(解約)が必要
- 国内の個別株・国債 → 保有は継続できるが、売却のみ(新規の買付は不可=塩漬け)
つまり、コツコツ積み立ててきた投信は、持っていく権利すら無かった。一番こたえたのは、NISAでメインに積み立てていた投信を、渡航のために全部売らなければいけないと分かったときだ。「あんなに時間をかけて育てたのに」という気持ちと、「どのタイミングで売ればいいのか」という迷いが同時に来た。これは僕の記憶違いではなく、当時のネット証券では標準的な運用だったとあとから確認できた。
補足しておくと、今振り返ればその強制的な利確は、結果として悪くなかった。売った資金が、渡米後に米国株で組み直す原資になったからだ。ただそれは結果論で、当時は選べなかったというのが正直なところだ。
「投資信託は海外赴任で継続できる」に2024〜2025年で変わった
ところがこの1〜2年で、各社が非居住者の保有可能商品を一気に拡大した。
- 楽天証券:出国手続きをすれば、投資信託も保有継続できる(売却のみ・新規買付は不可)(楽天証券 出国手続き)
- SBI証券:2025年5月末から、課税口座(特定/一般)の投資信託も継続保有の対象に拡大した(SBIグループ プレスリリース)
NISAについても、会社命令の海外転勤などに限り「継続適用届出書」を出せば最長5年は非課税で持ち続けられる(ただし新規買付は不可)(野村證券 FAQ)。NISAの扱いは別記事に詳しく書いた → 「海外赴任したらNISAは全部売却」は古い常識。
主要ネット証券の「非居住者になったときの扱い」早見表
| 証券会社 | 投資信託の保有 | 新規買付(積立) |
|---|---|---|
| 楽天証券 | ○ 手続きで継続可(売却のみ) | ✕ 停止 |
| SBI証券 | ○ 2025年5月末〜 課税口座の投信も継続可 | ✕ 停止 |
| 三菱UFJ eスマート証券(旧auカブコム) | △ 特定口座・累投型は出国前に売却が必要 | ✕ 停止 |
※同じ「保有継続可」でも、対象口座(特定/一般/NISA)や手続きの締切(出国日前日まで等)は会社ごとに違う。NISAは会社命令の転勤に限り「継続適用届出書」で最長5年は非課税継続できるが買い増しは不可。表は執筆時点の各社公式情報に基づく整理なので、最新条件は必ず各社公式FAQで確認してほしい。各社の対応比較と、僕が渡米前に実際にやった手順は証券口座の整理手順にまとめた。
なので、今これから出国する人は、僕のときのように「投信は問答無用で売却」ではない。手続きをすれば、投信も持ったまま渡航できる。これは素直に前進だ。
「投資信託を海外赴任中に放置」はできる。でも育たない
ここが一番大事なところ。変わったのは「投信を売らずに持てるようになった」一点だけで、買付(=積み立て)ができないのは昔のまま。「持ったまま放置していいですか?」という質問への答えは、放置(保有継続)はできる、でも積み立ては止まる、だ。
- 出国中は新規買付不可。毎月の積立設定はすべて止まる(放置=そのまま寝かせるだけ)
- 分配金の再投資型は、その再投資も新規買付扱いで止まることがある。受取型に切り替えるかは出国前に確認
- 手続きをせずに出国すると、各社の判断で強制売却されることがある。「放置」にも出国手続きは必要
- 会社によって対応が違う。たとえば三菱UFJ eスマート証券(旧auカブコム)は厳しめで、特定口座や累投型の投信は出国前売却が必要とされる(三菱UFJ eスマート証券 出国・帰国手続き)
- 出国時に有価証券などを1億円以上持っていると「出国税(国外転出時課税)」の対象になる
要するに「持っていける」けど「育てられない」。数年の駐在の間、積立は完全に止まったまま、というのが現実だ。「放置しておけば勝手に増える」ものではなく、「凍結して寝かせておく」に近い。
「特定口座」は海外赴任で「一般口座」に振り替わる
もう一つ、見落とされがちなのが口座の種類の話だ。「投資信託 特定口座」で調べてこのページに来た人も多いと思う。
非居住者になると、特定口座は使えなくなり、保有商品は一般口座へ振り替わる。これは投信も個別株も同じだ。何が変わるかというと——
- 特定口座:証券会社が損益を計算し、年間取引報告書を作ってくれる(確定申告がラク)
- 一般口座:損益計算は自分の責任。売却時の税額計算に取得価額(買ったときの値段)が必要になる
だから出国前に、保有している投信・株の取得価額を必ず記録しておくことが重要になる。証券会社のサイトから取引履歴をエクスポートしておくと、帰国後や売却時に困らない。帰国して再び居住者になれば特定口座に戻せる場合もあるが、非居住者の期間は一般口座扱いになる前提で準備しておくといい。この取得価額の記録を怠ると、帰国後に売るときの税額計算で手間が跳ね上がる。
「個別株」は持っていける。でも、それは”塩漬け”という意味
ここまで投資信託の話をしてきたけど、「海外赴任 株 塩漬け」で調べてこのページに来た人もいると思う。日本の上場株式(個別株)は、投信と扱いが少し違う。
- 保有は続けられる:出国手続きをすれば、持っている個別株はそのまま持っていける
- 売ることはできる:値上がりしたら売却して利益確定はできる
- でも、買い増しはできない:新規買付が止まるのは投信と同じ。配当の再投資も、ナンピンも、できない
- 特定口座は一般口座へ:出国にともない特定口座から一般口座へ振り替わる(帰国時に戻せる場合あり)。取得価額は自分で管理しておく
- 配当は受け取れる:ただし非居住者の配当課税の扱いは口座・居住国で変わるので、各社と税理士に確認しておく
- 株主優待は要注意:多くの会社が非居住者への優待送付を停止している。優待目的で保有している銘柄がある場合、出国前に「非居住者でも優待が届くか」を各社・各銘柄で確認すること
つまり個別株の「保有継続」は、塩漬け——売る自由はあるけど、育てる自由はない、という状態のことだ。数年の駐在のあいだ、ポジションは固定されたまま動かせない。
僕自身は、出国のタイミングで持ち物をかなり整理して、できるだけ身軽にして渡米した。理由は単純で、地球の裏側から、買い増しもできない塩漬けポジションを管理し続けるのがしんどいからだ。為替も時差もある中で、塩漬けの日本株を抱えて含み損益に一喜一憂するより、渡米後に使える口座(米国籍ETFやIBKR)で組み直すほうが、自分には合っていた。
もちろん「どうしても持っておきたい優良株がある」なら、塩漬け前提で残すのも一つの判断だ。大事なのは、“持っていける=積み立てを続けられる”ではないと知ったうえで決めること。
「塩漬けにする vs 出国前に売る」の判断フレーム
持つか売るかは、こう整理すると決めやすい。
| 塩漬けで残す方向 | 出国前に売る方向 |
|---|---|
| 長期保有前提の優良株で値上がりを数年待てる | 積み立て・回転目的だった銘柄 |
| 時差・為替の中で動かさなくていい覚悟がある | 地球の裏から含み損益を管理し続けるのがストレス |
| 特定口座→一般口座移行後の確定申告を自分で管理できる | 出国前に特定口座で精算してから渡航したい |
| 優待が非居住者にも届く、または優待目的でない保有 | 優待銘柄で非居住者への送付が停止される |
| 含み損があり、今の価格では切りたくない正当な理由がある | 含み損なら出国前に損出しして将来の節税枠に使う |
もう一つ、金額の大きい人だけに効く論点がある。有価証券の評価額合計が1億円以上になる場合は「出国税(国外転出時課税)」の対象になる可能性があるため、出国前に日本の税理士に必ず相談してほしい。1億円未満の一般的な駐在員なら基本的に対象外だが、NISAと課税口座を合算して1億円近辺にいる人は要注意だ(詳しくは出国税の記事に書いた)。
アメリカ行きは、もう一段重い(PFIC)
さらにアメリカ駐在の場合は、日本側の証券会社のルールとは別の問題が乗ってくる。米国の税制では、日本の投資信託は「PFIC」という扱いになり、持ち続けるだけで懲罰的に課税されうる。最悪、含み益の半分以上が税金で消える。
だから米国に行く人は、「日本の証券会社が保有を認めてくれる」かどうかに関係なく、税の理由で結局売った方が有利になることが多い。僕がNISAの投信を全部売ることになったのも、根っこはこのPFICだった。この話は別記事に詳しく書いた → 知らずに10年持っていた投信が、帰国後に税率50%超で課税される話(PFIC)。
なお個別株はPFICの問題が基本的には発生しない(PFICは受動的外国法人への課税枠組みで、個別株は直接株式として扱われる)。米国赴任でも個別株を残すことは税的な許容度が高い。ただし米国から日本株を売却したときの申告は複雑になるので、赴任前にCPAへ確認しておくと安心だ。
海外赴任前に「投信を売却」するか放置するか:出国前にやること
「手続きをすれば持ったまま行ける」と分かっても、「じゃあ売るのか、放置するのか」「何を、いつまでにやればいいのか」が分からないと動けない。ここは判断軸だけ置いておく。
- 含み益がある投信 → 特定口座のうちに利確する方が税務上シンプル。一般口座移行後は取得単価の自己管理になる
- 含み損がある投信・株 → 損切りして損益通算を使えば、当年の他の利益と相殺できる可能性あり(塩漬けにしても含み損は消えない)
- アメリカ赴任 → PFICの分だけ、投信は出国前に売る方が有利なことが多い
- どうしても残したい銘柄 → 塩漬け前提で「保有継続」の手続きをする(放置する)
そして、どの判断をするにせよ出国前に必ずやることがある。投信・個別株・NISAをまとめたチェックリストがこれだ。
- 各証券会社の「非居住者向け出国手続き」の内容と締切を確認(出国日前日まで、など会社ごとに違う)
- 手続きに必要な書類を準備(転出届受理証明等・会社により異なる)
- 保有中の投信が「継続保有対象」か確認する(全ての投信が対象とは限らない)
- 積立設定が出国後に自動停止されるか、要手続きかを各社に確認
- NISAを保有している場合:「継続適用届出書」の提出期限を確認(会社命令の転勤のみ適用・最長5年)
- 全保有銘柄の取得価額を記録しておく(一般口座移行後の税額計算に必須。証券会社のサイトからエクスポートしておく)
- 配当の受け取り方法(証券口座 or 銀行振込)を確認し、出国後も受け取れるか確認
- 株主優待銘柄は「非居住者でも優待が届くか」を各社・各銘柄で確認
- 含み損の銘柄は損出しのタイミングとして使えるか検討(帰国後より有利なケースがある)
- 有価証券等の合計が1億円超なら「出国税(国外転出時課税)」の申告が必要 → 税理士へ
- 米国赴任の場合:保有投信のPFICリスクを確認し、出国前売却を検討
手続きの締切は出国の数日前〜数週間前と幅があるので、動き出すのは出国の1〜2ヶ月前が安全だ。
じゃあ、これから積み立てる人はどうするか
僕が今、これから駐在の可能性がある人に伝えたいのはこれだ。海外の可能性が少しでもあるなら、投信の積み立てを「出国時にどうなるか」まで考えて始める。
- 投信に全振りしない:出国で積立が止まる前提で、ポートフォリオを組む
- NISAは制度を理解して使う:会社命令の転勤なら最長5年は継続できるが、買い増しはできない
- 渡米後を見据えるなら米国籍ETF・個別株という選択肢:VTI・VOO・IVVのような米国籍ETFはPFICに当たらない。非居住者でも使えるIBKRという口座もある
- 証券会社ごとの差を出国前に確認:同じ「投信保有継続」でも会社で条件が違う。手続きの締切(出国日前日まで等)も要注意
正直に言うと、僕自身は今「また海外駐在の可能性があるから、日本の投資信託を積み立てたくない」という気持ちがある。PFICと強制売却を一度経験すると、「積み立て→出国のたびに売却・再構築」を繰り返すコストが見えてしまうからだ。同じ理由で悩む人には、証券口座を2〜3社に増やさない・日本での長期投資は個別株や国内ETFベースで考える、という選択肢も現実的だと思う。
「海外なんてまだ分からない」という段階でも、知っておくだけで商品や口座の選び方が変わる。これは始める前にしか打てない手だ。
まとめ
「海外赴任で投信は強制売却」は、僕の時代は本当だった。でも2024〜2025年でルールが変わり、今は手続きをすれば持ったままにできる。ただし積み立ては止まるし、アメリカ行きならPFICで持ち続けるのも不利。だから結論は変わらない——海外の可能性があるなら、投信の積み立ては「出国時の扱い」込みで考えておいた方がいい。
僕は当時、NISAで積み立てた投信を全部売ることになって焦った。今は選べる時代になった分、選び方を最初から知っておくのが、これから渡航する人の強みになる。
※各社の対応は変更されることがあり、公式FAQに更新日が明記されていない場合もあります。最新の条件は必ず各証券会社の公式ページで、税務は日米両対応の税理士・CPAで確認してください。これは一駐在員の体験と、執筆時点の公開情報に基づく整理です。
よくある質問
Q. 海外赴任したら、日本の投資信託は必ず売らないといけない?
昔は主要ネット証券で「投信は売却必須」が標準でしたが、2024〜2025年に各社が対応を拡大し、今は出国手続きをすれば保有継続できる場合が多いです(売却のみ・新規買付不可)。ただし会社により条件が違い、手続きをせずに出国すると強制売却されることもあるので、出国前に各社の公式FAQで確認してください。
Q. 投資信託を海外赴任中に「放置」してもいい? 積み立ても続けられる?
保有(放置)は手続きをすればできますが、新規買付(積み立て)はできません。出国中は積立設定が止まり、分配金の再投資も止まることがあります。「持っていける(寝かせておける)が、育てられない」状態です。
Q. 個別株(日本株)は海外赴任中も持っていける?
保有は継続できますが、新規買付ができないため”塩漬け”になります(売却は可能)。出国にともない特定口座は一般口座へ振り替わり、取得価額の管理が自分の責任になるので、出国前に記録しておいてください。配当課税の扱いは口座・居住国で変わるため、各社と税理士に確認を。
Q. 個別株を塩漬けにするか、出国前に売るか、どう判断すればいい?
長期保有前提の優良株で「値上がりを数年待てる・動かさなくていい」なら塩漬けも選択肢です。一方で「管理が煩雑」「特定口座が一般口座に変わることへの対応が面倒」「渡航先の口座に集中したい」なら出国前整理を検討する価値があります。含み損の銘柄は出国前の損出しとして活用できる場合があります。記事内の判断フレームも参考にしてください。
Q. アメリカ駐在でも持ち続けていい?
日本の証券会社が保有を認めても、米国税制では日本の投信は「PFIC」として懲罰的に課税されうるため、税の面では出国前に売った方が有利なことが多いです。日本の個別株はPFICの対象外なので税的な許容度は投信より高いですが、米国から日本株を売却する際の申告は複雑になります。詳しくはPFICの記事を参照し、日米両対応の税理士・CPAに確認してください。
Q. 出国手続きをしないまま渡航するとどうなる?
証券会社に非居住者として把握された場合、各社の規約に従い強制売却や口座停止の対象になる可能性があります。「持ったまま行く」にも手続きは必要です。出国が決まったらすぐ手続きを開始し、各社指定の締切(出国日前日まで等)に間に合わせてください。
この記事は一人の駐在員の実体験の記録であり、投資・税務・法律の助言ではありません。 投資は自己責任で、税務は必ず専門家にご相談ください。制度・手数料は執筆時点の情報です。 詳しくは免責事項へ。
BOOK
『駐在のお金、全部やってみた』
このブログの4年分の記録を、出国前→着任→駐在中→帰国の時間軸で1冊に再構成しました。 失敗の実額と実ポートフォリオまで、全部載せています。