Medicareは日本帰国で解約すべき?Part B再加入の「月$405ペナルティ」の落とし穴
結論を先に言うと:「日本では使えないから全部解約」は構造的に間違い。Part A(入院保険)は保険料$0のまま持ち続けられるので解約する理由がほぼない。Part B(外来・診察保険)は解約できるが、再加入時に「離脱した年数×10%」が生涯上乗せされる——10年離脱なら月額が倍(2026年レートで月$405.80)になる。永久帰国で二度と使わない確信があるなら解約もアリ、数年後に帰米する可能性が残るなら払い続けた方が経済合理的、というのが判断の分かれ目だ。
「Medicareって日本に住んでたら使えないよね?じゃあ解約して保険料の払い損を止めよう」——駐在や海外移住の掲示板でよく見る話だ。半分は正しくて、半分は危ない。
「日本で使えない=払い損」という感覚自体は正しい。Medicareは原則として米国外の医療費をカバーしない(国境近くのカナダ・メキシコや外国船上の緊急時など、ごく限定的な例外だけ)。でも「だから解約」が正しい選択かどうかは、まったく別の問題だ。ここを混同すると、高齢になって帰米したときに医療費の爆弾を踏む。
この記事では、Part AとBの違い・再加入ペナルティの実額・判断の分かれ目を、公式の数字とともに整理する。
そもそもMedicareの「Part A」と「Part B」はまったくの別物
Medicareは制度がパートに分かれている。海外移住で論点になるのはこの2つだ。
- Part A(入院保険):入院・専門看護施設・ホスピスなどをカバー。米国で40四半期(約10年)働いた実績があれば保険料は$0。
- Part B(外来・医師診察保険):通院・医師の診察・検査などをカバー。毎月の保険料がかかる。
2026年の公式レート(CMS 2026 Medicare Parts A & B Premiums and Deductibles)で並べると、この差がはっきりする。
| 項目 | Part A(入院) | Part B(外来・診察) |
|---|---|---|
| 月額保険料 | 40四半期以上の就労で $0 /30〜39四半期は$311/30四半期未満は$565 | 標準 $202.90(高所得はIRMAA加算あり) |
| 免責額 | 給付期間ごと $1,736 | 年間 $283 |
| 海外在住中に持ち続ける実費 | $0(40四半期組の場合) | 月$202.90をずっと払い続ける |
| 解約すべきか | 原則NG(コストゼロで残せる) | ケースによる(本記事の主題) |
Part Aは「持っているだけ」ならタダ。40四半期の就労実績がある人なら、日本に住んでいても資格を保持し続けられて、実費はゼロ。将来の入院リスクをカバーするオプションを、コスト$0で手放す理由はない。「Part Aだけは残す」がまず鉄則だ。
問題は毎月$202.90かかるPart Bをどうするか、だ。
Part Bをやめると何が起きる?「再加入ペナルティ」の実額
Part Bは任意離脱できる。だから「海外にいる間は止めておこう」と考える人が出てくる。ここに罠がある。
Part Bを一度やめて後で再加入すると、離脱していた1年ごとに標準保険料の10%が生涯上乗せされる(Medicare.gov: Avoid Late Enrollment Penalties、SSA FAQ)。このペナルティは「加入している限り一生」続く。
2026年レート($202.90)で計算するとこうなる。
| 離脱期間 | ペナルティ | 再加入後の月額 |
|---|---|---|
| 2年 | +20% | 約 $243.48 |
| 5年 | +50% | 約 $304.35 |
| 10年 | +100% | 約 $405.80 |
10年離脱すれば、再加入後の保険料は丸々2倍。しかも標準保険料自体が毎年上がっている(2025年$185.00→2026年$202.90、約+9.7%)ので、将来の実際の負担はさらに重くなる。「一時的に払い損を止める」つもりが、生涯コストではずっと大きな負担に化けるわけだ。
最大の誤解:「海外在住」はペナルティ免除の理由にならない
「会社の健康保険に入っている間はPart B加入を遅らせてもペナルティが免除される」——これは本当だ。雇用主グループ保険の加入中・喪失時は特別加入期間(SEP=Special Enrollment Period)が使えて、ペナルティなしで再加入できる。
問題は、「日本への帰国・海外転居」は、原則としてこのSEPには当たらないこと(CMS: Medicare Enrollment for US Citizens Living Abroad(PDF))。会社の保険を失うのと海外に住むのは、Medicareの法律上まったく別扱いだ。海外在住を理由にした離脱には、ペナルティ免除の救済がない。
さらに再加入の窓口も狭い。SEPが使えないと、Part Bの再加入は一般加入期間(GEP)=1〜3月しか受け付けてもらえず、カバレッジ開始は加入翌月(1月加入→2月開始、3月加入→4月開始)。最長で約1〜2ヶ月の空白が生じる(Medicare.gov: When does Medicare coverage start)。「帰米したらすぐ入り直せばいい」は通用しない。
損益分岐:払い続ける vs 解約して再加入
数字で見てみよう。2026年レート固定(将来の値上げは無視)の粗い試算だ。
- 海外5年間、Part Bを払い続ける:$202.90 × 12ヶ月 × 5年 = 累計$12,174
- 5年解約して再加入する:ペナルティ+50%=月$101.45の上乗せ。帰米後20年加入すると 累計$24,348 の追加負担
ブレークイーブンはざっくり$12,174 ÷ $101.45 ≒ 約120ヶ月(10年)。海外5年のあと帰米して10年以上Part Bを使うなら、解約せず払い続けた方が結果的に安い。逆に、二度と帰米しない・二度とPart Bを使わないなら、5年払い続ける$12,174は文字どおりの払い損だ。
答えは「解約すべきか否か」ではなく、「自分は将来Part Bを使うのか」という一点に尽きる。
結局、今すぐ解約すべき人・すべきでない人
| 解約を検討してよい人 | 解約すべきでない人 |
|---|---|
| 永久帰国で、米国に戻る予定がない | 数年後に帰米する可能性が残っている |
| 日本の医療(国保・健保)に完全移行する | 米国での退職・老後を想定している |
| ペナルティを計算してもなお解約が得だと確信できる | 離脱が長引くほどペナルティが重くなる立場 |
| そもそもPart Aの40四半期に満たない=Part Bも維持コストだけが残る | 40四半期を満たし、Part Aを$0で残せる |
判断は単純だ。「米国に戻る目はゼロ」ならPart Bは解約してよい。「戻るかもしれない」なら原則キープ。どちらのケースでもPart A($0で持てる人)は残す。迷ったら「Part Aは残し、Part Bだけ判断する」で切り分けると整理しやすい。
僕の場合:自分がクレジットを積めているのか、正直まだわからない
正直に書くと、僕自身、Medicareのクレジット(四半期)をきちんと積み上げられているのか、自信を持って「はい」と言えない。
僕は出向ベースの駐在で、日本の社会保険(厚生年金・健康保険)を継続したままアメリカで働いている。この場合、日米社会保障協定(totalization agreement)によって米国側のSocial Security税・Medicare税が免除されている可能性がある。もしそうなら、駐在中にMedicareのクレジットをほとんど積んでいないことになる。(要確認)
ここが駐在員の落とし穴で、「アメリカで4年働いた=Medicareの40四半期に近づいている」とは限らない。協定で免除されていれば、そもそもクレジットは貯まっていない。この記事の「Part Aを$0で残す」話は、40四半期を満たした人の前提だ。自分がどの立場か、SSAの記録(my Social Security)で一度確認しておく価値がある。
もう一つ、駐在員に効いてくるのがIRMAA(所得連動の保険料加算)だ。Part Bの保険料は2年前の所得を基準に決まる。駐在中は日本+米国の合算で所得が高くなりがちなので、帰任直後にMedicareへ入る年は、赴任中の高所得を理由にIRMAA即発動の帯に入ってしまう可能性がある。個人申告で年収$500,000超なら標準$202.90+IRMAA$446.30=月$649.20まで跳ね上がる。僕自身、帰国後の口座や401kをどう維持するかと並んで、この辺りはまだ整理しきれていない宿題だ。
Part Bを解約するときの手続き(チェックリスト)
解約すると決めたら、Part Bの離脱は「重大な決断」として扱われ、オンラインでポチッとはできない。
- SSA(社会保障局)に連絡:電話 1-800-772-1213、または最寄りのオフィスで面談
- フォーム CMS-1763(Request for Termination of…)を提出。担当者とのインタビューが必要
- SSAの確認書(CMS-L457-1)で離脱が正式に記録される
- 出典:Medicare Coverage Outside the United States(PDF)
海外からこの手続きを進めるなら、帰国前後の書類まわりと一緒に、時間に余裕を持って動いた方がいい。GEPの窓口が1〜3月しかない以上、思い立ってすぐ動ける制度じゃない。
まとめ
Medicareの話でいつも思うのは、「今の払い損」より「未来の自分の使い方」で決めるべきだ、ということ。月$202.90を止める気持ちよさは分かる。でもその判断が、20年後に体が弱ったときの月$405に化けるかどうかは、今の自分が決めている。
僕はまだ帰国前で、自分がクレジットを積めているのかすら確定できていない立場だ。だからこそ言える——「よく分からないから解約」だけはやめておこう。SSAの記録を一度開いて、自分がどの椅子に座っているかを確かめる。その一手間が、たぶん一番安い保険になる。
よくある質問
Q. 日本に住んでいる間、Medicareの保険料は払わなくていい?
Part A(40四半期以上の就労実績がある人)は元々$0なので、払う・払わないの問題は生じません。Part Bは加入し続ける限り毎月$202.90(2026年)がかかり続けます。解約すれば支払いは止まりますが、再加入時にペナルティが発生します。使う見込みがあるかどうかで判断してください。
Q. Part Bを解約して、帰米したら入り直せばいい?
入り直せますが、条件が厳しいです。海外在住はペナルティ免除の特別加入期間(SEP)に該当しないため、再加入は一般加入期間(1〜3月)のみで、カバレッジ開始は加入翌月。最長で約1〜2ヶ月の空白が出ます。さらに離脱年数×10%の保険料上乗せが生涯続きます。「すぐ入り直せる」前提で解約するのは危険です。
Q. Part Aも解約した方がすっきりする?
おすすめしません。40四半期以上の就労実績があればPart Aは保険料$0で、持っているだけならコストはかかりません。自発的に解約すると再取得が複雑になったり遅延ペナルティが絡むケースがあります。迷うならPart Aは残し、Part Bだけを判断軸にかけるのが整理しやすいです。
この記事は一人の駐在員の実体験の記録であり、投資・税務・法律の助言ではありません。 投資は自己責任で、税務は必ず専門家にご相談ください。制度・手数料は執筆時点の情報です。 詳しくは免責事項へ。
BOOK
『駐在のお金、全部やってみた』
このブログの4年分の記録を、出国前→着任→駐在中→帰国の時間軸で1冊に再構成しました。 失敗の実額と実ポートフォリオまで、全部載せています。
