日本の投資信託はほぼ全部PFIC
結論を先に。 日本に籍を置く投資信託は、eMAXIS Slimもひふみも、iDeCo・NISAの中身も含めてほぼ全部PFIC(米国税法上の「passive foreign investment company=受動的外国投資会社」)に該当します。PFICを持ったまま米国の納税者(US person)でいると、通常のキャピタルゲイン税(0/15/20%)が使えず、最高37%の税率+日次複利の利子という重い課税(§1291)がかかる。20年保有なら実効負担率60%超、35年なら利益を超える106%という試算もあります。だから僕は赴任前に、NISAで積み立てていた投資信託を約1,000万円分、含み益ごと強制的に売るしかありませんでした。①どのファンドが該当するか②実際いくら課税されるか③帰国前にできる対策——を、実数字で整理します。
同僚に「eMAXIS Slim持ってるんだけど、アメリカ行っても持ってていいの?」と聞かれることが増えました。答えは、ほぼ「ダメ、というか持ってると地獄を見る」です。
でも「なんとなくダメらしい」で終わっている情報が多くて、自分のファンドが該当するのか・具体的にいくら損するのかまで踏み込んだものが少ない。僕自身、赴任準備中にこれを知って青ざめた側なので、当時の自分に渡すつもりで書きます。
(※僕はFPでも税理士でもなく、製造業のアメリカ駐在4年目の会社員です。税務の最終判断は必ず専門家と一次情報で確認してください。以下の税率・利子率は公式ソースを添えますが、あなたのケースへの当てはめは別問題です。)
そもそもPFICとは?「2つのテスト」で判定される
PFICは米国税法(IRC §1297)で定義される「受動的な外国投資会社」のこと。次のどちらか一方を満たせばPFICです(AND条件ではなく、片方でアウト)。
| 判定テスト | 内容 | 該当する目安 |
|---|---|---|
| 所得テスト | 総収入の75%以上が受動的所得(配当・利子・譲渡益・賃料など) | 株や債券の配当・利子で稼ぐ器はほぼ該当 |
| 資産テスト | 資産の50%以上が受動的所得を生む資産 | 株・債券を束ねている時点で該当 |
判定は毎年度、独立に行われます。つまり「去年はセーフ、今年はアウト」もあり得る。
投資信託というのは、そもそも「株や債券という受動的資産を束ねて運用する器」です。だから所得テストも資産テストも、構造的にほぼ自動で満たす。「悪いファンドだから該当する」のではなく「投資信託という仕組み自体がPFICの定義にハマる」——ここが最初に押さえておきたいポイントです。
eMAXIS Slim・ひふみ…どのファンドがPFICか(見分け方)
一番知りたいのはここでしょう。結論から言うと、「日本の運用会社が組成した投資信託・ETFは、原則すべてPFIC」と考えて外れません。
| ファンド/制度 | PFIC該当 | ひとこと |
|---|---|---|
| eMAXIS Slim シリーズ(三菱UFJ AM) | ✅ 該当 | 「S&P500連動」でも日本籍なのでPFIC |
| ひふみ投信(レオス) | ✅ 該当 | アクティブでもインデックスでも同じ |
| 楽天・SBI・野村・大和などの公募投信 | ✅ ほぼ全部 | 販売会社を問わず日本籍なら該当 |
| 東証上場ETF(日本籍) | ✅ 該当 | 上場していても日本籍ならPFIC |
| iDeCo・NISA口座の中身(上記ファンド) | ✅ 該当 | 口座が非課税でも中身の判定は別(後述) |
| 米国籍ETF(VTI・VOO・IVVなど) | ❌ 非該当 | 米国内国法人=PFICではない |
見分け方はシンプルで、「そのファンドを組成・運用しているのが日本の法人か、米国の法人か」だけ。「S&P500に連動しているから中身は米国株でしょ?」は関係ありません。中身ではなく器(ファンド)の籍で決まる。eMAXIS Slim米国株式(S&P500)は、中身は米国株ですが器は日本籍なのでPFICです。逆にVOO(バンガードの米国籍ETF)は同じS&P500連動でも非該当。
この「器の籍」という判定軸は、投資信託を海外赴任でどうするかの記事でも触れた、駐在で一番つまずくポイントです。
iDeCo・NISAの中身も例外じゃない——「日本の非課税」は米国に引き継がれない
ここが誤解されやすい。「NISAは非課税だからアメリカでも大丈夫でしょ」——大丈夫じゃないです。
日本の非課税制度(NISA・iDeCo)の「非課税」は、あくまで日本の税制の話。米国側にはまったく引き継がれません。米国から見れば、NISA口座に入っているeMAXIS Slimは「非課税の器に入ったPFIC」でしかない。運用益は米国側で毎年の課税対象になり得るし、ファンドごとにForm 8621という報告書の提出義務が生じる可能性があります(thecasualcapitalist ほか米系タックスアドバイザー複数が指摘)。
iDeCoはさらに厳しくて、日本で受けられる拠出時の所得控除も米国側では効きません(日米租税条約に該当規定がない——要確認)。「日本で節税、米国で毎年課税&報告義務」という、いいとこ取りの逆になりがちです。
なお僕自身、赴任時(2021年)に子供用のジュニアNISAも解約しました。当時は旧NISA制度(〜2023年)のため、非居住者になると継続不可でした。2024年からの新NISA制度では扱いが変わっており、会社命令等による海外赴任の場合、出国前日までに「継続適用届出書」を提出することで出国日から5年を経過する年の12月末まで保有継続・非課税扱いが可能です(新規買付は不可)。「非居住者になったらNISAは継続できない」は旧制度の話なので、これから赴任する方は出国前に証券会社へ継続申請手続きを確認してください(参考)。
PFICの実税額:§1291「超過配当」方式の計算
では、PFICを持ったまま売却するといくら取られるのか。QEFもMTMも選ばないデフォルト課税が§1291(超過配当方式/excess distribution)です。仕組みは3ステップ。
- Step1:売却益 ÷ 保有した総日数 = 1日あたりの配分額
- Step2:各保有年度に均等配分し、その年の最高限界税率で課税(=長期キャピタルゲイン優遇税率は使えない。2018〜2025年度分は37%)
- Step3:各年の税額に、さらに§6621の利子(日次複利)を上乗せ
利子率は年によって変わり、IRSの公式(Revenue Ruling 2024-25 ほか)では2024年8%・2025年7%・2026年Q1が7%、Q2が6%です。保有年数が長いほど利子が雪だるまになる——これが§1291の本質的な怖さ。
利益$10,000を基準にした保有年数別の試算がこちら(pficreport.com のシミュレーション、37%ベース)。
| 保有年数 | 税額(37%) | §6621利子 | 合計負担率 |
|---|---|---|---|
| 5年 | $3,440 | $590 | 40.3% |
| 10年 | $3,622 | $1,227 | 48.5% |
| 20年 | $3,630 | $2,396 | 60.3% |
| 30年 | $3,689 | $4,891 | 85.8% |
| 35年 | $3,679 | $6,930 | 106.1% |
20年保有で負担率60%超——長期キャピタルゲイン最高税率20%の3倍です。35年になると税+利子が利益そのものを超える(106%)。長く積み立てたインデックス投信ほど、放置するほど罰則がえげつなくなる構造です。
「年率5%みなし配当」という表現について(注意)
日本語の解説で「PFICは年5%のみなし配当で課税される」という説明を見ることがあります。これはIRS公式の規定そのものではありません。正式な課税方式は§1291(超過配当)・§1295(QEF)・§1296(MTM)の3つで、「年5%」はあくまで”年5%成長を想定した試算例”として簡略説明に使われているケースが多いようです。試算の前提として使うのは構いませんが、「IRSが5%で課税する」という理解は誤りなので、上の§1291方式で捉えておくのが安全です。
QEF・MTMは日本のファンドで使えるのか
§1291の罰則を避ける「選択肢」が2つありますが、日本のファンドではほぼ使えません。
| 方式 | 内容 | 日本の投信で使えるか |
|---|---|---|
| QEF(§1295) | ファンドの所得を毎年みなし受取として課税。罰則・利子を回避 | ❌ ほぼ不可。ファンド側が「PFIC Annual Information Statement」を発行する必要があるが、eMAXIS Slim・ひふみ含め日本の運用会社は基本的に出さない(要確認) |
| MTM(§1296) | 毎年末の含み益を普通所得として課税。利子チャージなし | △ 公開市場で取引されるファンドのみ。上場ETFは可能性あり、非上場の投信(eMAXIS Slim等)は不可(要確認) |
| デフォルト(§1291) | 上記が使えない場合の超過配当方式 | 事実上これになりがち=最も重い |
日本の投資信託を持ったままだと「一番重い§1291に自動で落ちる」ケースが多い。ここが「日本の投信=PFICで詰む」と言われる本当の理由です。
帰国前・赴任前にできる対策(判断軸)
「じゃあどうすればいいのか」。手段別に、自分のケースで決められるよう整理します。
| あなたの状況 | 現実的な対策 | 理由 |
|---|---|---|
| これから赴任する(まだUS personでない) | 赴任前に投信を売却・清算しておく | 日本の非居住者になる前・NISA枠内で処理できれば税・報告がシンプル |
| すでにPFICを保有中(US person) | 保有年数が浅いうちに売却清算を検討 | §1291は保有が長いほど利子で悪化。5年40%・10年48%…早いほど傷が浅い |
| 上場ETFで公開市場性がある | MTM選択が可能か専門家に確認 | 利子チャージを避けられる可能性 |
| 帰国後も新規で積み立てたい | 米国籍ETF(VTI・VOO等)に器を替える | 米国内国法人でPFIC非該当。経費率も低い(VOO 0.03%) |
| 米国市民・グリーンカード保持者 | 帰国後もUS personのままPFIC義務は継続 | 「日本に帰れば逃げられる」は誤り。Form 8621も続く |
判断の核はシンプルで、「早く・少ない保有年数のうちに、日本籍の器から出る」こと。帰国後に投資を続けたいなら、中身(米国株インデックス)は同じでも器を米国籍ETFに替えればPFICは回避できます。詳しい出国前の段取りはPFICを持ったまま帰国する前にやることの記事にまとめています。
僕がやったこと:NISAの投信1,000万円を、含み益ごと売らされた
ここからは実体験です。
赴任準備をしていた2021年末、僕はNISAでメインに積み立てていた投資信託を、約1,000万円分・強制的に売却しました。非居住者になると継続できず、PFICの問題もある。含み益がしっかり乗っていたのに手放す——正直、当時は「すげぇ後悔した」というのが本音です。利が乗ってるものをなぜ今売らなきゃいけないんだ、と。
ただ、もう選択肢がなかった。制度上、売る以外の道がなかったんです。ここは強調したい。これは投資判断のミスじゃなくて、制度に強制された悔しさ。だからこれから赴任するあなたが同じ状況になっても、「自分のせいじゃない、でも避けられない」と思ってほしい。
結果的にはこの売却、幸運でした。2021年末に現金化した直後、2022年に利上げ局面の株安が来た。暴落の直前の高値圏で売れていた形になったんです。ただ、これは完全に運です。強制売却の時期は自分では選べない——相場が悪い年に当たれば、下がったところで売らされることもある。「強制売却=得」ではなく「たまたま良いタイミングだっただけ」というのは正直に書いておきます。
もう一つ大事なのは、投資方針そのものは変えなかったこと。日本で持っていた頃も中身は米国株中心、売却後も米国ETFで運用を続けています。制度で”器”を替えさせられただけで、資産クラスは一貫。だから僕にとってPFIC問題は「投資をやめる話」ではなく「入れ物を替える話」でした。
ちなみに今でも、帰国後の資産運用で投資信託はやりたくないと思っています。また海外駐在の可能性を考えると、あの強制売却をもう一度やる気になれない。この「経験からくる制度選び」は、ドル転や円転の税金を考えるときの判断軸にもつながっています。
まとめ
PFICの話をすると、みんな最初は「面倒くさそう」という顔をします。でも僕が本当に伝えたいのは、税率の数字より、「利が乗ったものを、納得いかないまま売らされる」あの感覚を先に知っておいてほしいということ。
知っていれば、赴任が決まった瞬間に落ち着いて畳める。知らないと、渡米直前のバタバタの中で青ざめることになる。1,000万円分を泣く泣く売った側からの、これが一番の実感です。次に赴任が決まった同僚がいたら、僕はまず「NISAとiDeCoの中身、今すぐ確認して」と言います。
よくある質問
Q. eMAXIS Slim米国株式(S&P500)は中身が米国株だからPFICじゃない?
いいえ、PFICです。判定は中身ではなくファンドの籍(組成した運用会社の国)で決まります。eMAXIS Slimは三菱UFJアセットマネジメントが組成した日本籍ファンドなので、中身が米国株でもPFICに該当します。同じS&P500連動でも、米国籍のVOOなら非該当です。
Q. NISAやiDeCoの中身なら非課税だからPFICの心配はいらない?
いいえ。NISA・iDeCoの非課税はあくまで日本の税制の話で、米国側には引き継がれません。米国から見れば「非課税の器に入ったPFIC」で、運用益への課税やForm 8621の報告義務が生じ得ます。iDeCoは拠出時の所得控除も米国側では効きません。
Q. 帰国すればPFICの義務から逃げられる?
米国市民・グリーンカード保持者は、日本に帰国してもUS personのままなので、PFIC課税もForm 8621の報告義務も継続します。逃げられません。逆に、赴任前・保有年数が浅いうちに売却清算しておくほど、§1291の利子負担が軽く済みます(5年で約40%、10年で約48%)。
※本記事は僕(Jin)の実体験と公開情報の整理であり、税務・投資の助言ではありません。PFIC・Form 8621の判定は個別事情で変わります。金額が大きい人・複数ファンドを保有する人は、IRSのPFIC規定を確認のうえ、米国税務に詳しい税理士へ相談してください。
この記事は一人の駐在員の実体験の記録であり、投資・税務・法律の助言ではありません。 投資は自己責任で、税務は必ず専門家にご相談ください。制度・手数料は執筆時点の情報です。 詳しくは免責事項へ。
BOOK
『駐在のお金、全部やってみた』
このブログの4年分の記録を、出国前→着任→駐在中→帰国の時間軸で1冊に再構成しました。 失敗の実額と実ポートフォリオまで、全部載せています。