滞在中 入門 2026.08.01

駐在員のRoth IRA、COLAや住宅手当で「所得制限」を超える年がある

——税金を会社任せにしてきた僕の確認リスト
読了 約10分 ✓ 内容確認 2026.08.01 全8章
筆者:Jin|アメリカ駐在4年目・米国工場長

日本の製造業から渡米し、赤字工場を黒字化。実資産を 2,000万→6,400万円 にした過程を、失敗も実数字も公開しています。FPでも税理士でもない「自分で全部やった人」の記録です。著者の経歴 →

この記事の結論(先に3行) Roth IRAには年$7,000〜7,500の拠出上限とは別に「所得(MAGI)の上限」がある。2026年は独身$153,000・既婚(夫婦合算)$242,000を超えると段階的に拠出資格が消える。駐在員はCOLA・住宅手当・帰国旅費などが課税所得に乗るため、独身だと自覚なく上限に届きやすい。会社に確定申告を任せていても、Roth IRAへ拠出すべきか/できるかは「自分の投資判断=申告の外」なので、誰も教えてくれない。独身か既婚かで結論が真逆になるので、まず自分の申告区分を確認するのが第一歩。

僕は駐在の確定申告を、会社が雇った税理士に丸投げしている。質問票に答えて提出するだけ。だから正直に言うと、自分のMAGI(修正調整後総所得)がいくらで、Roth IRAの所得制限のどこにいるのか、長いこと自分で見ていなかった。

でもこのテーマを調べていて、ひとつ怖いことに気づいた。Roth IRAへの拠出は「W-2の確定申告」の外側にある個人の投資行動だから、会社の税理士は基本的にそこを見張ってくれない。「会社任せ」の人ほど、静かに上限を超えて拠出してしまうリスクがある。アメリカでは何をするにも自分で確認しないと危ない——お金の管理でも、まったく同じことが起きる。

この記事では、①制度の足場(いくらで・何が効くか)と、②会社任せだった僕がいま何を確認するようにしたか、の2層で書く。

なお、帰国後にRoth IRAへ日本の課税がかかるかどうかは別の論点で、帰国後のRoth IRAと日本課税の誤解に分けて書いた。この記事は「在米中に、そもそも拠出できるのか」だけを扱う。


Roth IRAの「所得制限」とは?拠出上限($7,000)とは別物

まず用語を分ける。Roth IRAには2つの別々の天井がある。

  • 拠出上限:1年に入れられる金額。2024・2025年は$7,000、2026年は$7,500(50歳以上はcatch-upで各年+$1,000/2026年は+$1,100)。
  • 所得上限(MAGI phase-out):所得が一定額を超えると、そもそも拠出できる額が段階的に減り、上限を超えるとゼロになる。

「$7,000枠がある」=「誰でも$7,000入れられる」ではない。所得が高い年は、枠があっても入れられない。ここが駐在員の盲点になる。

年度別の所得上限(MAGIのphase-out range)はこう変わってきた(IRS: Roth IRAs / Vanguard: Roth IRA income limits)。

申告区分2024年2025年2026年拠出上限
独身・世帯主$146,000〜$161,000$150,000〜$165,000$153,000〜$168,000$7,000(24/25)→$7,500(26)
既婚・夫婦合算(MFJ)$230,000〜$240,000$236,000〜$246,000$242,000〜$252,000同上
既婚・別々申告(MFS/同居あり)$0〜$10,000$0〜$10,000$0〜$10,000ほぼ拜出不可

読み方:この「範囲」の下限まではフル拠出OK、範囲内は按分で減額、上限を超えるとゼロ。MFS(既婚だが別々に申告・その年に同居あり)だけは$0〜$10,000という事実上の禁止ゾーンで、しかもインフレ調整されない。夫婦別々申告を検討している人は、ここで一気に資格を失う可能性があるので特に注意したい。


なぜ駐在員は自覚なく上限に近づくのか——COLAや住宅手当が課税所得に乗る

ここが本題。基本給だけ見ていると上限に余裕があるように見えるのに、手当を足すと届いてしまう——という構造がある。

判定に使うのは「額面の給料」ではなくMAGI(Modified AGI)だ。ざっくり言うとAGI(調整後総所得)にいくつかの控除・除外を足し戻した数字(正確な計算はIRS Publication 590-AのWorksheet 2-1で確定する)。駐在員の場合、次のものが課税所得=MAGIを押し上げる。

項目MAGIへの影響(原則)ひとこと
COLA(生活費手当)課税所得に算入(W-2 Box 1)軍人のOverseas COLA非課税とは違う。企業派遣は課税が原則
住宅手当(現金・会社直払い)原則W-2 Box 1に算入Section 119の要件を満たせば除外可だが企業派遣では通常困難
帰国旅費(Home Leave)会社負担分は原則課税所得家族分の航空券も乗る
タックス・イコライゼーション会社が肩代わりした税額がまた課税所得にグロスアップで雪だるま式に膨らむ
外国稼得所得除外(FEIE)MAGIでは全額足し戻す税額をゼロにしてもRoth判定では戻される

特に効くのが最後の2つ。FEIE(Form 2555)で課税所得をゼロ近くまで圧縮しても、Roth IRA判定のMAGIでは除外額が丸ごと戻される(Publication 54)。「税金ほぼゼロだからRothも余裕」と思っていると外す。ただし、日本の会社からW-2で給与を受ける一般的な駐在員はFEIEを使わずForeign Tax Creditで対応することも多く、その場合はこの足し戻しは起きない——代わりに全手当が丸ごとMAGIに乗る。どちらにせよ手当は効く、という結論は変わらない。


独身か既婚かで、結論はほぼ真逆になる(ここが判断軸)

この記事で一番伝えたいのはこれ。同じ手当構成でも、申告区分で危険度がまるで違う。

あなたの状況2026年の上限実感
独身駐在員$153,000で減額開始・$168,000で拠出不可基本給$120K+COLA+住宅手当ですぐ届く。要注意ゾーン
既婚・配偶者に収入なし(MFJ)$242,000で減額開始・$252,000で不可手当を積んでも届きにくい。ただし高額報酬+税額精算だと到達も
既婚・別々申告で同居$10,000でほぼ不可事実上拠出できない。申告区分の選択が命取り

だから最初にやるべきは「自分は独身の$153Kラインなのか、既婚の$242Kラインなのか」をはっきりさせること。ここを取り違えると、以降の心配がまるごとズレる。独身なら年収(手当込み)$130K〜$140K台に差しかかった時点で確認モードに入るのが安全だと思う。


僕の場合——税金を会社の税理士に丸投げしてきた

正直に書く。僕は既婚で、妻は収入なし。日本とアメリカを合わせた年収は2,000万円弱(渡米前は約1,000万円だったので、駐在で入金力は上がった)。ドル換算にすると、既婚のMFJ上限(2026年で$242,000〜)にはまだ距離がある。だから僕自身は、たぶん拠出資格を失っていない側だと思う。

「たぶん」なのは、自分で計算したのがつい最近だからだ。それまでは会社の税理士に丸投げで、自分のMAGIを一度も見ていなかった。住民税も年金も会社任せ。「今年3万円昇給したのにドル手取りは月$300減った」といった為替の効き方すら、あとから気づくくらいの丸投げ具合だった。

会社の税理士がやってくれるのは「W-2の確定申告」まで。Roth IRAに拠出すべきか・できるかは、申告の外にある僕個人の投資判断だから、誰も「あなたは資格ある/ない」と教えてくれない。会社任せの人ほど、この隙間に落ちる。

もうひとつ。僕の会社は住宅を「手当で現金支給」ではなく、0%の社内ローンで自分名義で買う仕組みだった(帰国時はノーロス・ノーゲインで精算)。だから世間でよく言われる「住宅手当がW-2にドンと乗る」ケースとは少し違う。これは会社ごとに本当にバラバラで、COLAも住宅も現金支給で全部課税所得に乗る会社なら、独身駐在員は簡単に上限へ届く。自分のW-2 Box 1で何が課税所得に入っているかを一度は見ておく——これがこの件から得た一番の学びだ。

(米国の退職口座は401kに加入・会社マッチングあり、HSAは未加入。Roth IRAとは別枠の話。日本の非課税制度が非居住者で強制解約になる話は投資信託の海外赴任時の扱いに書いた。)


上限を超えた年、どうするか——バックドアRothとプロラタの落とし穴

もし上限を超えて拠出資格がなくなった年でも、打ち手はある。ここは制度の足場として整理しておく(実行前に税理士に確認してほしい)。

手段中身落とし穴
誤って拠出した分を引き出すTax Day(4/15)までなら損益込みで引き出し可期限を過ぎると残高に毎年6%のExcise Tax
バックドアRothTraditional IRAに非控除拠出→Rothへコンバージョン。所得制限なしプロラタ・ルールで意図せぬ課税

バックドアRothの肝はプロラタ・ルール。Traditional/SEP/SIMPLE IRAに課税前の残高があると、コンバージョン時に「課税前・課税後の比率」で按分課税される。例えばTraditional IRAに$63,000(課税前)+新規の非控除$7,000があると、コンバージョンの1割しか非課税にならない、といった事故が起きる(Charles Schwab: Backdoor Roth)。

回避策として知られるのが、年末までに既存のTraditional IRAを勤務先の401kにロールインしてからコンバージョンする方法(roll-in and convert)。僕は401kを持っているので、仮にやるならこの受け皿は使える——とはいえ実際にやったことはないので、「そういう選択肢がある」という整理に留めておく。記録用にForm 8606(非控除IRA)を毎年出して課税済み拠出の履歴を残すのが前提になる。


いつ確認するか——トリガーと手順チェックリスト

「知る」で終わらせず「決める」ために、僕が自分用に作った確認手順を置いておく。

  • ① 自分の申告区分を確定する:独身($153Kライン)か、MFJ($242Kライン)か、MFS同居($10K=ほぼ不可)か。ここで危険度が決まる。
  • ② トリガーの数字を決めておく:独身なら手当込み年収が$130K台に乗ったら確認モード。MFJでも高額報酬+税額精算があるなら同様。
  • ③ W-2 Box 1を見る:COLA・住宅手当・帰国旅費が課税所得に入っているか。会社の報酬体系で違う。
  • ④ MAGIを計算する:確定申告時にPublication 590-A Worksheet 2-1、またはTurboTax等の「Roth IRA Contribution Limit Worksheet」で拠出可能額を出す。
  • ⑤ 超えていたら:Tax Day(4/15)までに誤拠出を引き出す/バックドアRothを検討(プロラタ確認)。判断は税理士へ。

⚠ COLA・住宅手当のW-2算入は「原則」で、会社の報酬構造やSection 119の適用可否で変わる。金額は必ず自分の税理士に確認してほしい。


まとめ

会社に税金を丸投げしていると、いちばん見落とすのは「申告の外にある自分の判断」だ。Roth IRAへの拠出はまさにそれで、税理士は教えてくれないし、上限を超えたことに気づくのは翌年の申告か、下手をすると6%課税が積み上がってからになる。

僕はたぶん大丈夫な側だった。でも「たぶん」を「確認した」に変えるまで、何年も放っておいた。駐在は自己責任の国での生活だ——枠があるかどうかを、来年の自分に確かめてもらう前に、今年の自分でいちど計算しておく。それだけで防げる話だと思う。


よくある質問

Q. Roth IRAの所得制限は、日本での年収も含めて計算しますか?

判定に使うのは米国税務上のMAGIで、原則として米国で申告する所得がベースです。ただし駐在員は給与が日米で分割されていたり、FEIE(外国稼得所得除外)を使う場合は除外額をMAGIに足し戻したりと計算が複雑になります。「日本の年収がそのまま全額乗る」わけでも「米国分だけ見れば安心」でもないので、Publication 590-Aのワークシートか税務ソフトで実額を出すのが確実です。

Q. 上限を超えて拠出してしまいました。どうすればいいですか?

その年のTax Day(原則4月15日)までなら、誤って拠出した分を運用損益込みで引き出すことで是正できます。期限を過ぎるとその超過額に毎年6%のExcise Taxがかかり続けるので、早めの対応が肝心です。具体的な引き出し方法や税務処理は税理士に確認してください。

Q. 独身と既婚で、そんなに変わるんですか?

かなり変わります。2026年の減額開始ラインは独身$153,000・既婚合算$242,000で、約$90,000も差があります。COLAや住宅手当が課税所得に乗る駐在員だと、独身は基本給+手当で$153,000に届きやすい一方、配偶者に収入のない既婚(MFJ)はかなり余裕があります。まず自分の申告区分を確認するのが、この問題の出発点です。

免責

この記事は一人の駐在員の実体験の記録であり、投資・税務・法律の助言ではありません。 投資は自己責任で、税務は必ず専門家にご相談ください。制度・手数料は執筆時点の情報です。 詳しくは免責事項へ。

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『駐在のお金、全部やってみた』

このブログの4年分の記録を、出国前→着任→駐在中→帰国の時間軸で1冊に再構成しました。 失敗の実額と実ポートフォリオまで、全部載せています。